「おじさーん!!」…
「こいよぉぉぉ」とトンボに向かって必死に棒(?)的なものを差し出すもとどくはずもなく、飛行船は時計塔に激突。しかし、なんやかんやでトンボは無事救出されるのであった。

  ふぅ、面白かった!と、私はビデオのスイッチを切り、テレビの電源を消した。魔女の宅急便ってすごい面白い!!私も箒で飛べたらなぁ。練習しても月にお祈りしても、絶対無理だろうなぁ…。友達がこの前親に買ってもらったと言う、おもちゃの魔女の箒をみせてもらってから、ますます憧れが強まった。あのおもちゃの箒は本来はわらでできている部分が、プラスチック製のラグビーボウルみたいな形のかたまりになっていて、自分が手に入れるなら、ちゃんとしたわらの箒がいいと思ったけど、やっぱりただの掃除用の箒よりかは魔女の箒として銘打った箒の方が魅力的かも…。つまり、魔女の箒用としてつくられた、わらでできた箒がいい。
  しかし、そんなものどこにも売っている様子はなく、売っていたとしてもかさばるから親が買ってくれる見込みもないので、考える前に諦めた。

  公園で遊ぼうと近所の道を歩いていると、道の真ん中に指輪が落ちていた。それが指輪じゃなくイヤリングでも、ぬいぐるみでも、壊れたキーホルダーであったとしても、道に落ちていて私が発見したという時点でなにか特別な意味のある物なんじゃないかと錯覚してしまう。これは魔法の指輪で、着けている間は魔女の力が使える、と後で友達に説明しよう。友達も私と同じ思考回路だからきっと話にのってくれるはずだ。

  友達は思いの外現実的な判断能力の持ち主だったようで、私が指輪を見せたら、高そうなものだからちゃんと警察に届けたほうがいいと言われた。実際は何の飾り気もなく高い物のようには見えなかったが、友達がそう言うんだから、私だけバカみたいに魔法の指輪だからと言って私物化するわけにはいかない。私は、だよね〜みたいな、最初からそのつもりでしたよ的なノリで、同意し、私たちは200メートルほど先の交番まで歩いていくことにした。

  指輪を拾ったあたりの道にさしかかると、女の人が、道の真ん中で何やら下を向いて探し物をしていた。私はボーっとしていて、その人が眼鏡をかけていたにもかかわらず、なにかコンタクトでも落としたのかな?などと指輪のこととは一切結び付けて考えられなかったのだが、友達が隣で、あの人指輪探してるんじゃないの?と言ったので、私もハッとして、そういえばこの指輪拾ったのもここらへんだ、と興奮気味で囁いた。だったら聞いてみようよ、と友達が私の脇腹を小突く。
  すみません、さっきここらへんで指輪拾ったんですけど、これをお探しですか?
 私は半笑いで、指輪をつまんだ指を目の前にかかげながら、中腰の女の人に話しかけた。女の人は怪訝な表情でこちらを見たが、指輪を凝視するとすぐに顔色を変え、そう、これ!これを探していたのよ!と、威勢よく喜びの声をあげた。私も若干ホッとしてその女の人に指輪を差し出すと、女の人は素早く私の手からそれを掴みとり、助かった、ありがとね、などと言いながらそそくさと行ってしまった。なんだか怒っているようにも見受けられたが理由はよくわからない。私がはじめ自分のものにしようとしていたことに感づいたのかもしれないと思い、一瞬悪寒が走ったが、そんなことあるはずもなく、私たちは拾ってあげたのにねーなどとぶつくさ言いながら、またもと来た道を引き返した。
  ここら辺の人ではないなと思った。厚手のコートに、高級そうなファーの襟巻をしていて、眼鏡もマダムっぽかったような気がする。けど、そこまでおばさんではなく三十後半くらいかな、とさっきの人を思い出しながら予測していた。

  しばらく歩いたところで、後ろから、タッタッタッ…と人が駆け足で近づいてくる音が聞こえ、振り向くとさっきのおばさんが息をきらして私たちの目の前まで迫ってきているところだった。私たちがビックリしていると、おばさんは持っていたコンビニの袋を差し出し、「これ、さっきのお礼に」と笑顔で、しかし慌てている様子で私たちに手渡すと、また駆け足で去って行ってしまった。
  私たちはしばらく袋を手にしたままポカーンとしていた。おばさんがあまりにも急いでいる感じだったので、声をかける隙がなかった。なので、お礼の言葉を告げることもできなかった。
  袋の中には、アイスのスーパーカップバニラ味が二つ入っていた。この2月のくそ寒い時期にアイスとは…とも思ったけど、アイスはアイスだ、素直に嬉しい。私と友達はすぐ食べたいけど寒いから、うちで食べようということになり、ここから徒歩5分の私の家へと向かった。

  家に着き、リビングのストーブをつけると、もうちょっとで温まるからという私の声を無視して友達はさっさとアイスの蓋を開封し、付いていた木のスプーンで食べ始めた。私もしばらくストーブの前で体を温めてから、アイスを食べ始める。
  ちょうどよい感じで柔らかくなったバニラ味のアイスは、スプーンですくってサクサク食べられた。身震いしながらしばらく黙々とアイスを口にしている時、私は子供心に思ったのだ。
  世界は不思議なことで満ち溢れている。




  あとがき

実際にこのような思い出があるわけではありません。ですが、子供の頃はこんな風に世の中をとらえていたなぁと思うことを文章にしてみました。



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